『ウォーハンマー3版』をプレイしました

 先日、翻訳チームの同僚でかつ同じサークルに所属する阿李濱さんのGMで『ウォーハンマーRPG3版』をプレイしてきました。シナリオは、Fantasy Flight Games社の公式ウェブサイトでダウンロード可能な短編シナリオ『Day Late』です。


 GMもプレイヤーも、ルールを事前確認するなどの時間がなかったので、その都度ルールを参照しながらのプレイになりました。このシナリオは、PC用のデータも付属していますが、せっかくなのでキャラメイクから始めました。プレイヤーは3名で、人間の見習い魔術師(焔)、ドワーフの御者、自分がトロール殺しになりました。ランダムで決定したのですが、出来合いキャラとあまり変わらない編成になってしまいました。


 ルールをきちんと把握してプレイした訳ではないのを承知の上で、プレイの手触りを大雑把に言うと、特殊ダイスなどキラリと光る要素があるものの、コンセプトの統一が取れておらず何かチグハグという印象も受けました。


 とりあえず、雑感を以下に列挙します。


ルール面


特殊ダイスによる判定方式は楽しかった。

キャラクターのスタンス・メーター周りのルールが想像よりも楽しかった。慎重か無謀かで、判定ダイスが変わるだけでなく、アクション・カードの内容も変わる(片面に慎重、その裏面に無謀時のデータが記載されている)。

異能は使用制限のあるもの(異能カードを捨て札にすることで効果を得られるもの)が少なくなかった。

アクション・カードの再チャージのシステムはなかなか楽しかった。ただし、GMが各モンスターのアクションの再チャージを管理しないといけないとなると、手間である。

キャリアは、戦闘系だけでなくCommoner(一般人)などもあり。

戦闘は想像よりもデッドリー。戦闘系キャリアであってもビーストマンの攻撃4〜5発も受ければ倒れる。

PCの防御能力は相手にペナルティを与えるものであり、あるとないとでは差がでるが、それほど強力なものでもない模様。実プレイでは敵の攻撃をこれによりミスさせるということはなかった。

ダメージ量はカードの枚数で対応。ダメージ把握がやりにくかった。

ダメージの回復はFist Aid(応急手当技能)などでシーン毎に試みることができる。ただし、回復量はダイスの目に左右される。実プレイでは、自分のトロール殺しは応急手当に成功するもののダメージを回復することはできなかった(ルールを誤解している可能性もあり)。

進捗ピース(progress tracker)を、イニシアティブや危険度や交渉度合いの進捗管理に使用するルールになっているのだが、正直判りにくかった。全員で確認するにはピースが小さく、各マーカーが何を示しているのかも判別しにくい。ホワイトボードにマス目をつけて管理するなどの方が判りやすいと思う。

和製TRPGのシーン制と同じく、セッションを映画のようにシーンで分けるというシステム。プレイしたシナリオでは、戦闘中にシーンが変わって、演出が入るという場面もあり(シーンが変わる幕間ではPCは治癒が可能)。


基本ルールの内容物


コンポーネントの全体的なボリュームは、箱を除いてもかなり大きい。

カードなどのコンポーネントは本当に3名プレイ用。特殊ダイスの数も多くはない。実プレイではGMとプレイヤーで使いまわすことが必要だった。参加プレイヤーは、他のゲームならルールを購入する感覚で、The Adventurer's Toolkit(冒険者ツールキット;29.95$)やDice Accessory Pack(ダイスパック;11.95$)を購入してもらうのが前提か?

魔法ルールは一通りあるが、魔法系キャリア自体の数が少ない。拡張を前提にした作りである。

ルール自体のPDF販売も行なっているが、ルールブックではダイスを色で区別しているために、カラー印刷でないと意味がなさない場合がある。ちなみにキャラクター・シートもフルカラー。

付属シナリオは、戦闘メインのダウンロード・シナリオとは異なり、シティー・アドベンチャー

キャラクター・カードのイラストは書き下ろし。扇動家とネズミ捕りのイラストが女性のものになっているなど、全体的にバタ臭さがなくなっている。ただ、イラストはカードゲームなどの流用も少なくない。


 先行情報では、どのような層をターゲットにして、どのようなプレイを提供するゲームかが、今ひとつ判断できませんでしたが、プレイ後も結局判らないということが鮮明になっただけでした。商品としてのコンセプトのベクトルが統一されておらず、チグハグな作品であるという印象です。これについて以下に列挙します。


3版は2版の既存ファンのための商品というよりも、新規プレイヤーのための革新的なTRPGを目指したものだと思っている。この新規プレイヤーとは、TRPGもたまにプレイするボードゲーム・ファンだと推測する。ただ、TRPGに不慣れな者でも、とっつきやすいシステムであるかというと色々疑問。ボードゲーマーと一番親和性が高いのは、『ディセント』や『Warhammer Quest』のRPG要素を強めたようなダンジョンハック・ゲーム、ファジーな判定部分やロールプレイなどの要素が少なめなものだと思う。しかし、3版は非戦闘遭遇にかなりのスポットを当てている。だが、これらのルールがTRPG初心者でも簡単に入り込めるというと、かなり無理があるように思える。

特殊ダイスやカードによる戦闘はボードゲームやカードゲームの要素が強く、これをメインにもっていけば、システマチックに遊べるゲームになると思う。ただ、この場合は「ネズミ捕り」などのキャリアはやめて、ウォーハンマー・オンラインのキャラクターのような判りやすい戦闘系キャリアに絞るべき。いっそ、アーキタイプ制の方がとっつき易いと思う。

ロールプレイの面からも「ネズミ捕り」などは難しいと思う。ヒーローの活躍シーンは映画などに溢れているが、「ネズミ捕り」がどういう行動を行なうかはTRPG初心者には難しいと思う。そもそも、初版や2版に「労働者」などの泥臭いキャリアがあったのは、背景世界重視でリアル系志向でこそ意味合いがあったのだと思う。転職システムというゲーム的な意味合いもあるが、貴族よりも一般人のキャリアの方が多いのは人口分布からも当然であるという納得性によるものだったと思う。しかし、3版では背景世界重視の展開をしていくとは思えない(『D&D4版』も背景世界の設定は利益につながりにくいため、データ重視にシフトしていっている)。そして、ルール面でもPCの財産は作成ポイントの割り振りで決定する(つまり、裕福なネズミ捕りも可能である)。このような中で、Commoner(一般人)などのキャリアをランダムで選ばせる意義が判らない。ボードゲームなら有利ではないハズレキャラをランダムで選ばせることに意義はあるだろうが、TRPGではどうだろう?

非戦闘遭遇の比重が少なくなければ、戦闘系以外のキャリアも存在価値があり、交渉系のアクション・カードが少なくないことから、3版はこちらを目指していると思う。しかし、進捗ピースを使用した交渉ルールなどは、成功の度合いを可視化した以上のものにはなってはいないように思える。もっと、こなれたシステマチックなルール、この箇所だけでも単体で遊べるミニゲーム並みのレベルのものが望ましいのでは?

ボードゲーマー、特にFantasy Flight Games社のボードゲームやカードゲームの顧客をコアの購買層と設定しているのだと思う。これは本作がボードゲームとしての売り方がされているからである。TRPGファンが試しに購入するには100$近い価格はハードルが高すぎないか? しかも、基本セットだけではデータ量やカード、ダイスが足りない作りなのである。



 ボードゲーマーをメインに新規開拓するのなら『ルーンバウンド』のTRPG要素をもっと強めたようなものでよかったような気がします。ダンジョンハックだけでなく、交渉とか謎解きの要素を盛り込むのなら、この部分はもっと練りこまないといけないと思います。例えば、交渉なら交渉材料とアクション・カードの技でもって駆け引きするカードゲーム的なルールとか、謎解きなら謎解きマップみたいなものをアクション・カードの技で攻略していき真相に迫っていくものとか。ランダム・ダンジョンみたいに、ランダム謎解きチャートみたいなものが可能になるようなものとか。そして、このシステムの背景世界が『ウォーハンマー』である必然性をあまり感じられませんでした。『ウォーハンマー』の知名度を活かすのならば、もっと『ファンタジーバトル』(以下FB)に近い感じでもよかったと思います。PCは『FB』の著名キャラをアーキタイプ化したもののほうがずっと判りやすいと思います。また、『ウォーハンマー』の目玉は何と言ってもミニチュアです。追加ダイスや追加カードに数千円払うのは抵抗あっても、追加キャリア・カードに彩色済みのプラチック・フィギャが付いていたら別だと思います。例えば、ウッドエルフのウォーダンサーの追加ルールを、フィギャにキャリア・カードと専用アクション・カードを添えて販売するのです。フィギャの完成度が高く、『FB』に流用可能なサイズならば、フィギャ目当てで購入する人も絶対いると思います。こういう展開が版元との契約の関係でできないとしても、何故PCを英雄的な立ち位置にせずに、Commoner(一般人)などが混じっているのかが判りません。

 色々面白そうな要素があるのだけど、全体的にはボタンを掛け違えていてチグハグな印象を受けます。そこが大変歯がゆいというか。友人が、特殊ダイスによる判定法などのルールコンセプトが最初にあって、『ウォーハンマー』の企画として商品化にこぎつけたのではないかと思うと言っており、自分もそれと同意見です。販売方針とか、版権とか、色々な思惑によって、最終的には方向性が定まらないものになってしまったのかなとか? 現在、アメリカのTRPG市場は『D&D』の寡占状態です。『ウォーハンマー』を別にしても、まったく別系統のシステムに頑張って欲しいものなのですが。


 以上が大雑把な感想です。古いTRPGファンの頭では捉えにくい良さがあり、誤解している可能性も大いにあると思います。むしろ、そうであって欲しいのです。