ユニークなTRPG『ゲヘナ〜アナスタシス〜』!

 今回は『ゲヘナ〜アナスタシス〜』(以下から『ゲヘナAna』)の紹介です。先日、初心者セッションをする機会がありまして、あらためていいシステムだなと実感しました。前回の『TORG』に続きちょっと趣向が違う題材ですが、もっとも当ブログではだいたい一貫して個性が強くかつマイナーなTPRGのネタを取り上げているのでそんなにぶれてないかも?

 本作はダーク・アラビアンファンタジーもの。『ゲヘナ』の第二版にあたり2006年に発売されています。世界設定もシステムも共に独特な和製ゲームです。


 世界設定についてはアラビア風って自体もユニークですが、そのダークさも異色です。この世界の舞台は何と地獄に堕された国で、ある意味『ウォーハンマー』より過酷。絶大な力を持つ“神の反抗者”が、天使の支配していた魂の保管所である地獄を占領。その地獄に地上の王国を引きずりこんだんですね。そして、邪霊という部下と共に人間を玩具にしていたぶっているという感じです。本作ではPCたちは享受者という存在になります。彼らは神と邪霊の力を一緒に身体に宿すという命がけの試練の末、破格の力を手に入れた超人になります。その力というものは、霊魂を使役して戦ったり、地獄の砂漠の黒砂を使用する呪術だったりとダークな感じなものが多く、シンプルな正義の味方とは一線を画した存在になっています。


 そして、システムもかなり独特なものになります。基本はシンプルで「能力値+技能レベル」に等しい数のd6をロール。4以上の出目の数で成否を判定します。ただ、システムのメインは技能ではなく各クラス(術技)が持つパワー(戦士系は闘技、術者系は魔術)になります。これらのパワーは、コンシューマーゲームでお馴染みのツリー制で習得していきます。例えば、“獣甲術”では1レベルのパワーが4つあり、そのそれぞれにランクがあります。そのランクをアップさせたらその闘技の効果が強化されます。そして、習得したランク総数によってこの“獣甲術”自体のレベルが上がり、2レベルのパワーが習得できるといった形です。マルチクラス、ようは複数の術技を習得するのもかなり簡単です。しかし、各々使用には条件があります。例えば獣甲術では、獣甲(寄生生物などの生物兵器)に身体の一部を置き換えてそれを使用するのが条件です。

 ここまでは他のシステムでは一般的な感じですね。『ゲヘナAna』のシステムの肝にしてユニークな部分が、「ダメージ算出法」と「連撃」になります。
 まず、「ダメージ算出法」なのですが、これは「判定に失敗したダイスの数」がダメージに加算されるのが基本です。これは武器による攻撃だけでなく、魔術にも当てはまります。そして、武器戦闘に関しては命中を成功させるのに必要な出目は4に固定されてなく、武器毎に異なります。さらに、各武器には「牽制」、「通常」、「渾身」という3つの攻撃方法があり、それぞれ判定に必要な出目と、ダメージ基本値が異なります。
 例えば、中東で一般的な刀剣のシャムシール。牽制攻撃の場合、判定に必要な出目が「3」で基本ダメージが「筋力−3」。通常攻撃では「4」と「筋力−1」。渾身攻撃は「5」と「筋力+1」。渾身攻撃は高ダメージが望めるけど命中しないかもしれない。牽制攻撃では命中しやすいけど装甲に弾かれるかもしれない。ギリギリの命中で当てるというのが理想なのですね。ただ、命中の数が少ない場合、相手がカウンターというハイリスク・ハイリターンな防御行動を取って来る可能性があります。
 そして、この「ダメージの算出法」は「連撃」というシステムと連動しています。本システムでは武器攻撃は1ターンの間に複数回行なえるのがデフォルトです。1撃目が命中したら、2撃目を撃てるのですね。そして、1撃目の命中した出目の数によって、2撃目の判定のダイスの数にボーナスが付くのですね。つまり、ジャブで距離を測ってからストレートを打つように、牽制攻撃で命中数を稼ぎ、ダイスの数を増やして渾身攻撃を狙う感じですね。
 また、命中した出目の数によって連撃終了時に“闘技チット”を獲得できます。これは、戦士系のパワーである闘技(パッシブ系除く)の使用に必要な戦士のMPとも呼べるものです。
 実際に本作の戦闘を経験すると、シチュエーションによって求められるデータが異なることが実感できるかと思います。連撃を続けるため、また最初は闘技チットを得るためにも、命中しやすい武器が望ましいです。回避力のやたら高いボスと回避力の低い雑魚との戦闘では、雑魚で闘技チットを溜めて、大技をボスに決めるという戦略があるでしょう。この場合、雑魚のHPをそれなりに削りながらも殺しきらない程度の丁度いいデータの武器が欲しくなるわけです。そしてボスには、カウンターされない程度に命中してかつ高ダメージを叩きだせる武器データをね。
 データの数字が大きければ最適解というシステムではないのですね。TPOによってデータの価値が変わる。素晴らしいです。


 また、この要素が複雑に絡み合ったシステムのお陰で、キャラクターの戦闘ベクトルも幅広くデザインできます。連撃回数に恵まれた手数タイプや、闘技チットを溜めて溜めて大放出の大技を撃つタイプとか。


 そして、本システムではこれらのデータ構築が秀逸なのですね。成長させたい、こちらも触ってみたいというデータが多いです。
 例えば、戦闘系ならば“刀術”の術技がスタンダードに強いです。刀士は、銘刀という魔剣使いで、闘技は攻撃系、防御系、補助系がソツなく揃った万能タイプ。ただ、変化球的要素に乏しく、攻撃方法が銘刀に限定されてしまいます。これに対して“魂装術”という術技は、武器に霊魂を憑依させて戦う技。TPOに合わせて武器を選択できるし、ダメージ決定時に保有している闘技チットの数でダメージ上昇できるという変則タイプ。そして、闘技のほとんどが自分のターンの準備行動で行なうもの。つまり、このラウンドは防御重視という感じで流れを読んで使用するタイプ。テクニカルだけど、その分適応力が高く、だから楽しい。だいたい、同じパターンでも戦えてしまう刀士は、隣の芝生が青く見えてしまうかもしれませんw 後、刀士でも“魂装術”は伸ばせるので、そうなると色々なビルドを試してみたくなる。そして、そもそもツリー制の成長システムは、やれることが広がるという感じが強く、育てていきたくなる傾向が強いと思います。

 アーキタイプに堕天使の邪眼魂装士(“邪眼術”と“魂装術”を使う堕天使ですよ、奥さんっ!)という中途半端発展途上のキャラがいますが、こういうキャラクターを作ってみたくなるのも十二分にわかります。ちなみに、初心者セッションではこのアーキタイプが人気でしたよw


 術師系もスタンダードにしてオールマイティな“炎術”から、眼差しで相手を呪う“邪眼術”、創世の神の言葉を操る絶大にして不安定な“神語術”など、個性的なものがそろっています。


 データ作りのアイデアの上手さという点ではいわゆるヒーロー・ポイント系のルールも素晴らしいです。本作では「堕落」というルールがこれになります。PCである享受者は、邪霊と天使の力を宿しています。その邪霊の方の力が、悪魔の囁きをするのですよ。「力が欲しいだろ……」って。実に背景世界に合ったシステムです。「堕落」する毎にポイントが溜まり6点までいったらNPC化になります。このポイントはセッション後、1ランクの成長を諦めることでリセットすることができます。これも悩ましくてよいですね。ゲーム開始時に2点なら、このセッションでは維持するかどうするか。中盤で1点使ってしまうと、いっそ5点まで使うか。いや、しかしラストバトルまで使わずにおくかとか。そして、結局3点でセッションを終えて、リセットするかしないか。こういうジレンマは楽しいですよね。後、演出面でも楽しめますね。PCが使用時に演出するのはもちろんですが、GMも楽しめますよネ。危機的状況で補助魔術失敗。「堕落」すれば成功し、仲間がダメージを受けなくすむという場面にPCの心に住まう邪霊が囁くのです。『どうせ、この力は使わないんでしょ。そうよね、私は天使。仲間の命よりも己の魂の純潔が大切だもの。クスクス……』とかね。いやぁ、タノシスィィw




 ただ、独創さが素晴らしい本作ですが、それが逆に敷居の高さにもなってしまうと思います。システム面においては、ぱっと見イメージがつきにくい。世界設定もベクトルが狭いためやりづらい。まず、中東風世界観に豊富なイメージを持っている方は少ないでしょう。後、設定的に邪霊が圧倒的に強い。善と悪の力が拮抗している世界ではなくて、邪霊は地獄に堕ちた人間の世界を滅ぼす力を持っているのですね。ただ、それでは遊べないのであえてやらないという感じ。悪を滅ぼしてオール・オーケーみたいなシナリオは作りにくいかも? 舞台も砂漠中心と限定されています。昨日観た学園バトルもののアニメのネタを流用してシナリオ作成とか、他の和製システムと比べたらやりづらいでしょうね。

 この世界設定の幅の狭さについてですが、3作目のサプリメント『幻洋綺譚』で異なるベクトルに拡大されています。ゲヘナ内には不安定な鏡の世界があり、そこの海洋世界を扱ったサプリメントです。追加種族にクラス、そして従来とはかなり雰囲気の異なる解放的な舞台。西洋風ファンタジーの舞台に、東洋風サプリメントを追加するなど従来とは違う要素を加えてテコ入れを図るのは常套手段ですね。。ただ、本作の場合はこれ以降、サプリメントは発売されず、展開が止まっています。

 現在、7年前に発売された基本ルールも入手が困難になっています。う〜ん、もったいない。とっつきにくい部分はありますが、何と言えない魅力もあるシステムなのですね。基本ルール買ったけど一度もプレイしたことがないまま本棚の奥に眠っているという方は、一回でもプレイしてみる価値があるかも? 空き時間にアーキタイプを使用してモンスターと模擬戦をするだけでも目新しくて楽しいと思いますよ。

 現在、基本ルールは在庫切れのようですが、サプリメントはまだ購入できますね。


ゲヘナ―アナスタシス (ジャイブTRPGシリーズ)

ゲヘナ―アナスタシス (ジャイブTRPGシリーズ)

魔星降臨―Supplement:ゲヘナ アナスタシス (ジャイブTRPGシリーズ)

魔星降臨―Supplement:ゲヘナ アナスタシス (ジャイブTRPGシリーズ)

獄王顕現―Supplement:ゲヘナ‐アナスタシス (ジャイブTRPGシリーズ)

獄王顕現―Supplement:ゲヘナ‐アナスタシス (ジャイブTRPGシリーズ)

幻洋綺譚―Supplement:ゲヘナ アナスタシス (integral―Supplement:ゲヘナ~アナスタシス~)

幻洋綺譚―Supplement:ゲヘナ アナスタシス (integral―Supplement:ゲヘナ~アナスタシス~)


 基本ルールの入手が難しいのはハードル高いですが、このようなシステムこそ電子書籍で再販をやってもらえたらありがたいですね。

 とりあえず自分は、初心者セッションで感触を得たので、もうちょっとGMしてみようと思っています。