『ハーンマスター』の戦闘!

 今回は『ハーンマスター』の戦闘についてです。


ハーンマスター

ハーンマスター


 JGC2012ではサンセットゲームズの体験卓にて主に『ハーンマスター』の模擬戦闘、D&D4版の戦闘遭遇だけをピックアップしたようなものを複数個用意して回させてもらいました。のべ50名程度の方が参加して下さり、ありがとうございました。初心者の方がほとんどだったのですが、ルール把握も早く、リアルでダイナミックな戦闘を楽しんでいただけました。

 『ハーンマスター』の戦闘は『ロールマスター』のようなリアル志向であるものの、システム的な軽さや手触りは『ウォーハンマーPRG2版』に近いと思っています。



 では実際はどんな感じなのか例を示したいと思います。


 郷士(自由農)の息子ナラスは血気盛んな青年であり、軽装歩兵としての経験を積んでいます。村人の一人がガルグーン(ゴブリン)を見かけため荘園は警戒態勢。ナラスは偵察中です。向こうから物音がしたのでとっさに小屋の陰に身を隠すと、向こうから2体の人影が近づいてきます。120cm程度の醜い顔をした半裸の子鬼、ガルグーン。それらは手には鉈のできそこないのような刃物を持っています。この程度なら独りで何とかなると思い少し身を乗り出した瞬間、相手に気がつかれてしまいます。ナラスは覚悟を決めて躍りかかります。

 『ハーンマスター』での行動順は〈主導権〉という技能の値で決まります。これは軍歴があれば高い値で習得可能です。ナラスの値は64になりガルグーンより先に行動可能です。

 自分の手番にとれるアクションは「移動」、「移動して近接攻撃」、「接敵状態で1ヘクス移動して近接攻撃」、「遠隔攻撃」、「撤退」などの他のシステムでもお馴染みなものです。ナラスは図のように移動してガルグーン1にショートソードを突き刺します。




 近接戦闘は攻撃側と防御側の成功度合いを表で参照して解決します。こう書くと複雑そうですが実際はシンプル。成功度合いと言っても4つ、通常の成功と失敗、それに決定的成功と致命的失敗。攻撃側と防御側の組み合わせで16パターンしかなく、しかも頻繁に発生する組み合わせは限られいます。数回のプレイで大体頭に入ることでしょう。ただ、このシステムは自分ターン以外でもダイスロールをすることが多く、その分、劇的な組み合わせが発生する機会は多くなっています。


 ではナラス攻撃の結果を見てみましょう。ナラスの攻撃は通常成功。子鬼はそれをとっさに回避しようとしますが、判定の結果は通常失敗。交差する欄は「攻★1」。これは攻撃側がダイス1個分のダメージを与えたことを示します。命中部位をロールした所「胸部」。ショートソードの「刺突」衝撃力に+1d6し、ガルグーンの胸部の「刺突」の防御点を引いた値を求めます。この値がダメージなるのではなく、「負傷表」でどんな傷を負ったのかを求めます。値(実効衝撃力)が7だとすると、子鬼は「胸部」に「中傷2」の刺し傷を負ったことになります。このシステムではそれがどの程度の傷なのか目安が書かれています。この場合、「深さ3インチ(7.62cm)」の刺し傷となっています。いや、太ももなら判るけど胸にそこまで刃が刺さったなら致命傷っ。なのでもう少し軽めに描写します。

「躍り出たナラスは雄たけびをあげると子鬼の剥き出しの胸に剣を突き立てる。その切っ先はあばら骨に阻まれたが、その勢いを失わず胸の肉をこそぎ落した」


 このシステムの負傷の度合いはエグ目です。他のシステムの感覚でいくと「軽傷」が「中程度の傷」、「中傷」が「重傷」でしょうね。傷を受けたガルグーンはショックで気を失う可能性があります。「中傷2」の「2」は負傷レベルを表し、この値に等しい数のd6をロールし、【耐久力】の値以上ならショック状態に陥ります。人間の平均的な【耐久力】は11程度なので負傷レベル3でもう戦力外になる可能性が少なくないということになります。2d6した結果出目は7で、ガルグーンはショック判定に成功しました。ただ、今後パーセンテージ・ロールに負傷レベルの5倍に等しいペナルティを受けることになります。


 ナラスのターンは終了し、次は〈主導権〉50でガルグーン2が動きます(ガルグーン1の〈主導権〉は傷のため40に減っています)。この子鬼も移動後に攻撃。人数差によりナラスの防御行動には−10%のペナルティを受けます。ガルグーン2は刃物での攻撃、ナラスはラウンド・シールドの受けを選択します。結果は攻撃側が通常失敗、防御側が通常成功。表から「防優」の結果を得ます。これは防御側が「戦術的優位」を得るということで、「戦術的優位」を得たキャラは1回の行動を行なえます。ただ、1ターンに2回目以降の「戦術的優位」を得ることはできません。ナラスは盾で子鬼の一撃を押し返し、そのまま剣を突き出します。



 この攻撃に対してガルグーン2は「逆撃」の防御オプションを選択します。これは攻撃に対してカウンターを狙うリスキーな選択です。判定の結果、ナラス、ガルグーン2共に通常成功で、「双★1」になります。これは双方の攻撃が同時にヒットしたことになります、ナラスは子鬼を左肩に「軽傷1」を与えますが、自分の右腿に一撃を受けます。踏みこんだ際に鉈で叩かれたという感じでしょうか。鎧のお陰で実効衝撃力は「3」ですみましたが結果は「軽傷1(転)」。「軽傷1」を負い「転倒判定」を行なう必要があります。この判定は3d6で【敏捷性】、ナラスの場合12以上ならば失敗です。3d6の出目は14で失敗、彼はバランスを崩し転倒します。

 先ほどの戦術的優位ですが、隣接する敵が「転倒判定」に失敗した際にも得ることができます。つまり、2体の子鬼はナラスを攻撃できる権利を得ました。攻撃は同時ですが、まずガルグーン2から判定を行ないます。ナラスとくんずほぐれずしているこの子鬼は今度こそ致命傷を負わせようとします。ナラスは盾による受けを選択。結果は双方が通常失敗。流石に体勢が悪かったのでしょう。今度は胸から血を溢れだしているガルグーン1も仇とばかり鉈を振りおろします。ナラスはこれに対して「逆撃」を選択。敵の命中も負傷により落ちているし、もう一撃与えれば十中八九相手は倒れます。チャンスに賭けたのです。しかし、子鬼の攻撃は通常成功。それに対してナラスの攻撃は致命的失敗。このシステムはパーセントロールの1の位が0か5で成功したら決定的成功、失敗なら致命的失敗になります。60の出目は通常なら決定的成功でしたが、負傷と人数差のペナルティによって致命的失敗になってしまいました。結果は「攻★3」。せめて防御点の高い箇所に命中し、ダイスロールが振るわないことを祈るしかありません……。



 このように『ハーンマスター』の戦闘はダイナミックな感じになります。ナラスは絶体絶命ですが、この一撃に何とか耐えれば逆転する可能性も0ではありません。このシステムでは劇的なことが起きうるからです。

 骨子はシンプルなのですが、シンプルな分リスク回避に頭を捻ることになります。傷を負うと加速度的に不利になりますしね。また、ダイスロールによって劇的な効果も、致命的な失敗も起こりうるので、テンションが保たれやすいです。これ以外にも、運用は楽ではないけど一方的に傷を与えることが可能な飛び道具の存在もあり、この活用と対処も悩ましくて楽しいです。


 ただ、戦闘は当然ながらリスキーです。刃物を持った大人が斬りあったら当然酷いことになるというのが大前提でしょう。また、軍歴を持つキャラクターの割合は世界設定的に少数であり、他のキャラクターの戦闘能力は低めになります。基本的に戦闘はこの世界の一要素でしかなく、これを避けるということも充分セッションの本題になるでしょう。しかしながら、リスキーだからこそ、命がけだからこそすごく燃えるという側面もあります!


 異世界シミュレーション型の本作で、戦闘遭遇のようなものはどちらかというとイレギュラーかもしれません。しかし、この世界のシビアさを充分に味わえますし、これはこれでいいかなと思った次第です。