ウォーハンマー3版のキャリア観

 今回は久しぶりに『ウォーハンマー第3版』の話です。以前、なぜ第3版ではPCの立ち位置を英雄にせず、コモナー(一般人)などを混ぜているのか判らないと書きました。

 ルールを読みますと、キャリア間の能力格差がかなり激しいのですね。例えば、アドベンチャー・キットで追加された、ドワーフのアイアンブレイカーのクラス能力は「グロムリル製のフル・プレート」を持っているという大変強力なものです。コモナーのクラス能力は「幸運点が更新された際、疲労点を1点回復する」です。幸運点は、プレイヤーのよいロールプレイやアイディアに対してGMがチップを出し、それがプレイヤーの人数分たまれば更新されます。これが1セッションで何回起き、そしてその際に疲労点が回復することにどれだけ重要性があるかというと、ちょっと疑問です。ちなみに、ソルジャーのクラス能力は「戦闘中、準備ステップ毎に疲労点およびストレスが1点ずつ回復する」で、格差があるのは確実です。

 データの強い弱いだけがすべてではないけど、なぜハズレのキャリアを入れているかが判らないわけです。


 これについては、公式ウェブにデザイナーの見解ととれるものが載っていました。今度、『The Winds of Magic』という魔術系のサプリメントが発売予定でして、その追加キャリアの選考についての記事があったのです。

 Jay Littleというシニア・デベロッパーと、2版の『堕落の書』などにも関わったDave Allenで、キャリア選考を行なったとのことで、魔術師系の上級キャリアはもちろんだけど、それだけでなくServant(召使い)やScholar(学者)も入れたとしています。この理由として、魔法諸学府は魔術師だけで構成される組織ではなく、部屋を掃除する召使いもいれば、魔法を研究する学者もいるという見解を上げています。

 これは、魔法諸学府という設定に対してそれに関わるキャリアを上げているので、背景世界重視の考え方ですね。ライクランドも、ソルジャーやウィザードなどだけが住んでいるのではないので、コモナーが絶対必要だから入れたということだと思います。納得はできます。


 ただ、この考えが『第3版』のシステムにマッチしているかは疑問です。リアルな異世界をシミュレートするということであれば、人口分布に従いPCが就くキャリアを決定するのが筋です。少なくともコモナーになる確率が5〜8割程度でなければいけないかと思います。また別の観点で、世界の住人の1人を演じるというロールプレイ重視のシステムにするのなら、データよりも設定重視のシステムにすべきでしょう。具体的には『キャッスル・フォルケンシュタイン』のようにデータによるキャラクターの強弱は少なくするとかですね。そして、キャリアシステムや転職システムではなくアーキタイプ制にするとか。「召使い」ではなく、「アレを見てしまった端女」みたいにキャストとしての立ち位置を付加するとか。判定方法も、特殊ダイスによるものとか凝ったものでなくてもよいかも知れません。いっそのこと、フレイバーたっぷりの特殊カードによる判定方式などの方がマッチするかも?

 しかしです。世界設定重視とするならば、世界設定を充実させなければなりません。『第3版』の展開をみると、それを目指してはいないと思ってしまいます。付加価値の高い情報を売ろうというより、カードなどのコンポーネントを売るという姿勢が強いのは明白です。アクション・カードやキャリアの追加によってカードを売るというのであれば、データよりのシステム設計でよいかと思います。

 やはり、このシステムは現時点でもどのベクトルを目指しているのかよく判らないというのが現状です。