『Children of the Horned Rat』レビュー

 今回は『ウォーハンマーRPG』のサプリメント『Children of the Horned Rat』、通称『ネズミ本』の紹介です。Game Japan誌上で森野氏が大プッシュされていますが、自分も個人的に最も翻訳版を出して欲しいサプリメントであります。


 これは、頭から終わりまで“混沌の鼠人間”ことスケイブンを取り扱ったものです。これは割合初期のサプリメントでして、何と『堕落の書』の前にでております。D&D4版にあてはめれば、『ドラコノミコン』の前に『ビホルダーの書』や『クオトア大全』を出すようなもの。何か色々おかしいです。何故、このようなサプリメントが世に出たかというと、自分はデザイナーたちと愛情と熱意の賜物しかあり得ないと信じています。これは、北米最大のコンベンションGEN CONのWORLD RPG AWARDノミネート作品になっており、色物サプリメントの範疇を超えた怪作といえるでしょう。


 ハードカバーのフルカラー128ページで、表紙はもちろんスケイブンです。残念なことにAmazonではもう割高な中古品しか入手できないようです。


WFRP Children of the Horned Rat (Warhammer Fantasy Roleplay)

WFRP Children of the Horned Rat (Warhammer Fantasy Roleplay)


 では、その内容を章毎に簡単に紹介しましょう。内容を取り間違っている箇所もあるかもしれませんが、ご了承下さい。また、英文の後ろのカッコ付けの訳語は私が勝手につけているもので、もちろん正式なものではありません。


第1章:The Skaven are real, and they are among us!(スケイブンは実在し、奴らはわしら近くにおるんじゃ!)

 この章では、スケイブンに対する主にエンパイア人の見解が書かれています。「鼠人間の歴史」から「学者の見地」など、豊富なフレイバー情報があります。またケイブンの解体図が3つもあり、これは必見!


第2章:Skaven History(スケイブンの歴史)

 スケイブンの通史です。『シグマーの継承者』の2章のような感じですね。もちろん、年表もついています。


第3章:Skaven Society(スケイブンの社会)

 スケイブンの性向から風俗、統治形態、氏族ごとの説明と幅広く扱っています。“身分の低いスケイブンは鼻を下に向け、身分が高くなるにつれ鼻を上に反り返らせる”や“マーキング”などの大変有益な情報が載っています。


第4章:Skaven Settlements(スケイブンの住処)

 スケイブンのアンダー・エンパイア(地下帝国)の説明です。ちなみに最大級の都市のスケイブンブライトの人口は、何と25万匹! 後、サンプル居住区と、氏族をランダムで作成するルールも載っています。


第5章:Skaven Warfare(スケイブンの争い)

 スケイブンの戦闘に関する章です。スケイブンの戦術や、スケイブンの戦士の種類、スケイブンの特殊武器が載っています。スケイブンの呪文リストもあり、初歩魔術に“Warp(ワープ)”が、暗黒の魔法体系に“Plague(疫病)”と“Stealth(忍術)”、“Warp(ワープ)”が追加されています。更にワープストーンの活用法とワープストーン魔法被造物、スクリール族のびっくりどっきりメカ超テクノロジー・アイテムの作成ルールさえ載っています。


第6章:Skaven Characters(スケイブン・キャラクター)

 スケイブン・キャラクターに血肉を与える情報が載っています。まず、スケイブンのロールプレイ指針。“チューチュー”や“身繕い”などの項目に分けて説明がされています。「スケイブン・キャラクターの創造」では、PCのようにスケイブンを作成するルールがびっちりのっています。敵役としても、PC種族としても活用できます。まず、スケイブンは3つの種に分かれます。グレイ・シーアの道が定められた白スケイブンのThe Chosen(選ばれし鼠)。肉体的に優れた黒スケイブンのThe Mighty(偉丈夫鼠)。それ以外のThe Common(一般鼠)です。ちなみに“一般鼠”が【運命点】を得る可能性は3割です。PCとしてキャラメイクをする際には、種を選ぶ自由は無論ありません。1d10で“1”をロールした場合のみ“一般鼠”以外を選択することができます。

 続いてスケイブン・キャリア。何と初期キャリアが8つ、上級キャリアが14個、計22個も追加されています。ちなみに『Knights of the Grail』こと「ブレトニア本」では14個、『Realm of the Ice Queen』こと「キスレヴ本」では17個なので、「ネズミ本」の力の入れようが判ります。せっかくなので、どういうものがあるか紹介しましょう。*がついているのが、基本キャリアになります。


共通系

Slave(鼠奴隷)*
Clanrat(氏族鼠)*
Clawleader(爪長鼠)
Clan Chieftain(氏族長鼠)


エシン族系

Night Runner(夜駆け鼠)*
Gutter Runner(溝駆け鼠)
Master Assassin(暗殺鼠)
Sorcerer(忍術鼠)


スクリール族系

Skirmisher(鼠散兵)*
Warlock Engineer(妖技工鼠)


ペスティレン族系

Plague Monk(鼠疫病兵)*
Censer Bearer(鼠香炉持ち)
Plague Deacon(鼠悪疫助祭
Plague Priest(鼠悪疫司祭)


モウルダー族系

Packmaster(鼠調教師)*
Master Moulder(妖鼠医)
Master Mutator(狂鼠医)


ブラック・スケイブン系

Black Skaven(ブラック・スケイブン)*
Stoemvermin(強襲鼠)


グレイ・シーア系

Apprentice Grey Seer(見習い灰色の預言鼠)*
Grey Seer(灰色の預言鼠)
Seer Lord(筆頭預言鼠)


 この中で特にユニークなのが、“鼠奴隷”です。これは、まんまスケイブン社会での奴隷(及び食料)なのです。ランダム表でこのキャリアをロールする以外に、“夜駆け鼠”などの氏族限定キャリアを別の氏族の一般鼠がロールした場合にも、強制的に“鼠奴隷”になります。また、このキャリアには、スケイブンではなくても、もちろんいかなる種族のどんなキャリアでも、転職可能です。

 キャリア以外に新異能が12種も追加されており、中にはキャセイ伝来のArt of Silent Death(黙死拳)のようなものもあります。また、モウルダー族の生体改造ルールが、これでもかとばかりに追加されています。


第7章:A Skaven Campaign(スケイブン・キャンペーン)

 スケイブンのシナリオへの活用法の紹介です。敵役とPC用含めて、色々なスケイブン・キャンペーンの指針が載っています。また、「アンダーエンパイアの動物誌」もあり、15種のクリーチャーが紹介されています。


第8章:Slave of Destiny(宿命の奴隷)

 単発シナリオです。PCがスケイブンとなって奴隷狩りをするという内容ではありませんので、あしからず(チェッ)。



 『堕落の書』も色々なアイディアを詰めるだけ詰め込んだ濃い内容でしたが、それは「ネズミ本」も同様です。正に怪作というに相応しいサプリメントなのです。