美しくもハードなペンギンTRPG『Valley of Eternity』のご紹介!
はい、今回もマイナー・システムのご紹介ですよ〜
恐らく日本では指の数程度しかプレイされていないだろう『Valley of Eternity』についてです。
本作は一言でいえば「ペンギン」です! そうです、PCは全員あの飛べない鳥です。
動物モノってことはほのぼの系? いいえ、違います。
白銀の世界、南極。
その美しいも過酷な世界を生きるペンギンたち。
これは異能を持つペンギンたちのアイデンティティをかけたハードボイルド・ストーリー。
それが『Valley of Eternity』!
なんじゃこりゃ〜〜??
はい、別に酔っぱらって書いてるわけじゃないですよ。
本作はスウェーデンの女性デザイナーに手による『Ikuisuuden laakso』を、英訳したものとのこと。
Vagrant Workshopより発売中。
http://www.vagrantworkshop.com/index.php?categoryid=8&p2_articleid=35
リンク先には表紙イラストが。白銀の世界を背に槍を持つ難しい表情のペンギンらしき生き物が……。
ほのぼのって感じじゃないですよね?
この世界の南極ではペンギンは簡単な道具や住居を使って暮らしています。しかし、頭の中は基本的に鳥類。「食べること」、「寝ること」、「卵を育てること」の三大欲求が彼らの行動原理です。
PCたちはこれらの普通のペンギンから逸脱した存在になります。
まず、ペンギン・ヒーロー。彼らは自我、哲学に目覚めたペンギンです。
「俺たちの生きる意味は?」
「皆、自分勝手に生きていてもだめじゃない? 私たちには道徳が必要では?」
「皆を導く理念が必要だ!」
彼らは思い悩むことでPhilosophical Powers(哲学パワー)という超常能力――他人を癒したりアザラシを召喚したりする能力などを得ます。ちなみに、ペンギン・ヒーローのサンプルキャラには、ギリシャの哲人や神々の名前がつけられています。
彼らはペンギン社会の護り手でもありますが、その社会の異物です。彼らの考えはそのレベルの高さ故に社会の理解を得ることはないのです。これが、ヒーローたちの人生をドラマチックかつハードのものにしています。
PCたちが選べるもう一つの英雄像がアンチ・ペンギン。
彼らも自我に目覚め社会から逸脱したものたちです。
過酷な南極大陸。自分たちの生き方はこれでいいのか? 氷河の呼びかけに応じた彼らはペンギンを超えた存在に変貌します。
魚しか食べることのできなかった嘴は猛禽類のそれに変わり、身体の白黒の模様が反転。そして、彼らは肉食獣として、通常のペンギンなら生きることができない雪原を住みかとするのです。
表紙のペンギンはそうです、アンチ・ペンギンです。彼らはGifts of the glacier(氷河からの授かりもの)という攻撃的なパワーを身につけます。ペンギン社会の掟からも超越している彼らには、卵泥棒や同族喰らいすら行うものもいます。
ダーク・ヒーロー。それがアンチ・ペンギン。彼らは氷河の声に応じた際、ブラック・スノーなどのはずかしい格好よい名前を名乗り始めます。
彼らの存在はペンギン社会、そしてもちろんヒーローたちとも摩擦を起こします。そして、過酷な氷河の意思の信奉者である彼らに安穏という文字はありません。
このようにPCの存在自体にドラマ性を盛り込んでいるのですね。「君はペンギンです」ってところで止まってなく、何とも言えない独自色を打ち出していることはいいですね。
次にルール面。
使用するダイスは6面体のみ。テストに使用する能力値と同じ数のダイスを振って5以上の出目の数を成功数と見なすタイプです。
選べるペンギンは皇帝ペンギンやイワトビペンギンなど6種類(ちなみに自分はアデリーペンギンという言葉をこのシステムで覚えました)。選んだ種類によって能力値ボーナスと特殊能力がもらえます。
ここら辺はすごくオーソドックスな感じです。
本システムでユニークなのはいわゆるHPの概念。ここではそれはWarmth(暖かさ)という数値で表されます。過酷な南極を生き残るには体温が必要というわけです。
Warmthがマイナスなれば倒れます。ちなみに、意識を失った仲間に密着して自分の暖かさを相手に分け与えるルールもあります。凍える人を体温で温めるってやつですね。
そして、Warmthを維持するのに必要なのがFat(脂肪)。脂肪を燃やして体温を維持するわけです。Fatはペンギンなら魚、アンチ・ペンギンなら肉を摂取することで補給することが可能です。また、PCたちの超常能力はこのFatを燃やすことで使用することができるわけです。
Fatに関しても仲間に分け与えるルールが存在します。
詩的に表現すれば“命の源を口移しで分け与える”。
身も蓋もなく言えば、ヒナに餌を与えるように、胃の中の未消化のものを相手の嘴の中に注ぎ込むってことになります、はい。
システムのバランスはどうかというと、結構シビアです。付属シナリオが2本ついているのですが、どちらでも死者(死ペンギン?)がでましたね。
このシビアさも本システムの世界観にあっていてよいと思います。
試される地、南極。
温かい血潮も雪原ではすぐ凍る。
魂の雄叫びも吹雪にかき消される。
残るは白銀の静寂……
しかし、氷河は知っている。
脂肪を燃やし生きあがいた者たちを……
己の心に殉じた英雄たちを……
成長ルールなどなく、何度も遊ぶようなものではないです。
ただし、とりあえず一回は遊びたくなることろが大変よくできたシステムだと思います。
PDF版が$10.05。93ページですが、絵本みたいなレイアウトで1ページ当たりの文章量は少なめ。1冊にコンパクトにまとめています。英文も簡単な部類。シナリオも1作、5ページ程度のもの。