『バルナ・クロニカ』をプレイしました

 今回は5月末に発売された『バルナ・クロニカ』の話です。


英雄叙事詩RPG バルナ・クロニカ (Role&Roll RPGシリーズ)

英雄叙事詩RPG バルナ・クロニカ (Role&Roll RPGシリーズ)


 「英雄叙事詩RPG」と銘打った本作の帯には「新たな正統派ファンタジーTRPGが誕生! 荒野に生きる人々を屍闇の王から救う英雄となれ!!」とあります。気になって購入していたところ、先日サークルの学生がマスターをしてくれプレイヤーで参加させてもらうことができました。



 一回のプレイでの大まかな感触によるものですが感想でも。結論から言いますと、「世界観はまさに正統派ファンタジーで雰囲気がよい」、「システムは思ったより煩雑ではない」、「デザイナーが意図したと思うセッションを行なうにはマスターとプレイヤー任せな点が多い」です。


 まずはシステムについて。このゲームの判定は6面ダイスとトランプを使用します。6面ダイスを複数個ロールしてぞろ目の数で成否を判定するのが基本です。そして、これとは別にトランプを使用する判定があります。ルール部分を一読して煩雑なイメージを受けましたが、実際にプレイしたらそんなことはありませんでした。ぞろ目の数で命中部位が決定するルールとかは面白く、ダイスロールが楽しかったですね。ただ、戦闘において高い[成功値]を出してもダメージ上昇につながらないのは、少し物足りない印象をうけました。「[成功値]5以上でダメージ+1d6」とかのルールがあっても面白いと思いました。しかし、こうするとクリティカルコールの部位狙いしかしなくなる危険性大ですね。


 次に世界観について。マスコット銃とか存在しますが「正統派ファンタジー」という看板に偽りないものになっていると思います。雰囲気はまさに表紙のイラストみたいな感じですね。セピア調の上品な感じで、綺麗な感じだけれども耽美ではなく、どこか悲しげでかつ柔らかい感じ。『ウォーハンマー』みたいにダークかつバイオレンスでもなく、『りゅうたま』みたいにほのぼのという感じでもなく、シリアスなファンタジーという感じでしょうか。いやぁ、好みです。

 オーソドックな感じでもありますが、独自の世界観を打ち出しています。種族なども元ネタがあるものの、この世界独自のものです。武器名も流星鎚(モンニーグスター)や湾小刀(ククリナイフ)など、独自の漢字を当てはめています。呪文名は逆に「失せ物探し(ビラ・ガウ・ガウザ)」や「風の矢(ハイゼ・アルコン)」など、オリジナル言語の読みがついています。こういう統一感があるオリジナル言語はもちろん作成が大変であり、かなり気合が入っていると思います。

 個人的に一番気にいったのが創世の設定です。この世界には神に替わる存在として「風」「火」「土」「水」「光」「闇」の6柱の聖霊(クライア)がいます。彼らが世界を作るですが、彼らは人間臭くかつ超然としており、その創世記はまさに神話の風格が備わっていると感じました。大まかな流れは「光」に嫉妬した「闇」が「光」を殺害することを発端とする、「闇」と他の聖霊たちの戦いの話ですね。最終的に「人」に転生した「光」が「闇」を倒して神話の時代は終わります。

 そして、「人」の時代になるのですが、彼らは過ちを犯し「光」の祝福を失い、力を奪われます。エルフィン(エルフ)族は“希望”を失い、ドヴォルグ(ドワーフ)族は“賢明”を失い、原因となったザハール(人間)族は他の者からの信頼を失うなどです。そして、聖霊に半ば見捨てられた世界に堕落して妖魔の王となった人間の真王、屍闇の王が転生します。ただ、同時に聖霊に選ばれた「希望の灯」と呼ばれる英雄たちも転生し、屍闇の王の野望を砕きます。一定周期でこの戦いは続けられ、PCたちはこの「希望の灯」の宿命を授けられた英雄という設定です。これはゲームの動機づけとしてうまくできていると思います。

 PCたちは選ばれたものであるものの、『ブレイド・オブ・アルカナ』や『アルシャード』のPCたちのような超人的な能力を授かってはいません。本システムは「英雄叙事詩RPG」でありますが、英雄譚のベクトルが異なるのですね。PC用種族として5つの種族が用意されており、各種族はそれぞれ弱点を持ち、互いを理解しているわけではありません。PCたちは他のPC(種族)を認め、己の弱さを克服した上で、世界をよりよい方向へまとめあげ、最終的に屍闇の王と対峙しなければなりません。世界設定に成長物語が内蔵されており、これがこのシステムの示す英雄譚と思います。


 ただ、現時点では「デザイナーが意図したと思うセッションを行なうにはマスターとプレイヤー任せな点が多い」のです。本作は物語重視であると思いますが、内容的は戦闘ルール以外のフォローは薄く、細かい世界設定も示されていません。また、フレイバー寄りのデータ(例えばクリーニングの呪文や〈愛嬌〉や〈冗談〉の技能)が存在し、これらを活かすセッションを想定されているはずなのですが、これらのフォローがないのですね。後、本作の鍵となる各種族の弱点を心魂というルールで表現されていますが、これの使い勝手が今一つという感じです。これをドラマチックに活用するためには、マスターが色々シナリオに仕込まないといけないという印象を受けています。


 しかし、フォローがないのは意図的かなという感じがします。気が小さいけど陽気な小人族が愛嬌をふりまくのは、ロールプレイ上の必然であって、ルール上の有利不利にしたくないという考え方なのかもしれません。また、一昔前のシステムではどう遊ぶかはユーザー任せというものがスタンダードだったので、その感じかなという気がしなくもありません。


 ただ、今はフォローがあって当たり前の時代ですね。こちらは『ロール&ロール』で記事が連載中ですし、7月にリプレイがでるみたいですので、遊び方や色々な設定などを提示してもらえるものだと思っています。