奴らが帰って来た! PCゲーム『Shadowrun Returns』

 今回は趣向を変えて未訳PCゲーム『Shadowrun Returns』についてです。


 『シャドウラン』と言えばサイバーパンクにファンタジー要素を融合させたTPRGで、1989年に誕生して以来、延々と遊び続けられているシステムです。先月にはアメリカで第5版が発売されています。本作は何回かコンシューマーゲーム化されており、そのひとつがスーパーファミコンゲーム『シャドウラン』(日本版発売1994年)です(大変イカシタ作品で思い入れが深く、今もカセットだけ持っています)。『Shadowrun Returns』はこの続編というか、現在の技術で根本的に作りなおしたものになります


http://store.steampowered.com/app/234650/?l=japanese


 Steamというコンピューター・ゲームのダウンロード販売プラットフォーム専用で販売されています。『Shadowrun Returns』はKickstarterというクラウドファンディングのサイトで資金調達しています。この企画をファンから直接融資してもらって、発売にいたったというわけです。


http://www.kickstarter.com/projects/1613260297/shadowrun-returns


 そのため大変マニア向けの内容になっています。前作と同じくクォータービューのアドベンチャーRPG。メインテーマのBGMは旧作のアレンジ。ただし戦闘はターン制に変更。シナリオ作成キットも同封。付属キャンペーンは実にマニア好みのものでしょう。

 死んだ仲間からマトリックスを通じての己の死の究明の依頼。イカレタ登場人物たち。そして、初版から登場しているシナリオ・フックをつかっての変化球。有名NPCもちらほら。なおかつ、今時っぽい美少女キャラも登場。

 マニア心をくすぐるよくできたシナリオでした。

 自分はトロール・フィジカル・アデプトでプレイしました。ゲームのデータ部分はスーパーファミコン版と同じく、TRPG版とそこそこのリンクはあるものの別物です。フィジカル・アデプトは魔力により肉体を強化した武道家で、自キャラは武器でなく素手で戦うタイプでした。素手でもキリングハンドというバフパワーで銃器以上の破壊力がでるのですね。筋力の高いトロールということもあり、後半では自ターンに敵を1〜2体狩っていく感じで、まさに挽肉製造機。爽快でした!


 ただ、内容は大変マニアックで一定層に向けた作品でしょう。サイバーパンク自体が1980年代にできたジャンルで、『シャドウラン』も1980〜1990年代から見た近未来がベースになっています。つまり、インターネットも携帯電話も普及していなかった時代を引きずっているのですね。

 具体的に言うとシナリオの冒頭にサムから連絡があるのですが、ゲーム上では自室のアパートでテレビ電話がある机にキャラを移動させそれを取るという形になってます。さらに言えば、近代施設の壁に丸い時計がかかっていたり、やたら紙ベースの記録を多かったり、主人公は主にレッグワークで聞き込みを行なったり。

 これは流石に古臭いですね。「奴から何か手紙がなかったか?」と聞き込みを行なうよりも、着信履歴などを調べて裏を取るってほうが納得感がありますね。

 ただ、この手の手法があっての『シャドウラン』とも言えます。電話を取るとか、ロッカーを漁るとかしないと、ゲーム的表現として“しまらない”。また、古臭い帽子被ったトレンチコートのドワーフ探偵が「マトリなんとか信用できるか! 情報は足で稼げ! ま、フィリップ・マーロウばりとはいかねぇがな」とか言うのは、実に『シャドウラン』的世界観にマッチしていると思います。


 もうある種の古典的パターンというものを『シャドウラン』は確立してしまってると思います。それ故に、尖鋭化していく。

 だから、Kickstarterでマニアから資金を調達し、販売方法もダウンロードのみ。そして、シナリオ作成キットを付属させることで、拡張性をもたせているのでしょう。


 ニッチな層を対象としている場合が多いTRPG。マニアのためにマニアの製品を届けることが可能な環境が整いつつあることから、今後もクラウドファンディングの活用が多くなると思っています。



 最後に『Shadowrun Returns』に興味をもたれた方。価格も$19.99と安めです。ただ、もちろん日本語パッチとかはありません。そして、英文は難しい部類にはいるでしょう。

 アドベンチャーパートの多くが対話形式で成り立っています。会話文なのでスラングばりばり。それに対する受け答えもスラング。自分は未訳ゲームをプレイする際は、英文の3割程度の意味を掴めばいいと思っています。前後のシチュエーションと数箇所の単語を押さえれば大体の意味が推測できます。自分で遊ぶ分にはだいたいそれで問題ないのです。ただ、本作ではなかなかそれもままならない。主人公の対応の選択肢もスラングなので、どういうものなのか憶測が入らざるを得ないみたいな感じです。相手に対する台詞にasshole(ケツの穴)って入ってるから、これは罵倒の意味かみたいな。後、専門用語とか英語以外の言語もサイバーパンクだから混じってきます。主人公がベースキャンプにする酒場の女主人がクボタさんですか、この人の英文に「omae」やら「So ka」、「Domo arigato」などの日本語がそれなりに混じってます。これは日本人だから読めるのであって、ドイツ語やらフランス語やらならチンプンカンプンでしょうね。じっさい、そういうケースがあります。

 しかしながら、このゲームはシーンに結構細かく区切られていて、その前に状況解説の文書がでます。それは会話文でないのでそれほど読みにくいものではないです。これを追っていけばおおよその流れは把握できるかなとは思いますよ。


 日本語版がリリースされるのが一番ですが、マニア向け、自作シナリオを共有しあうシステム、かつ翻訳難易度高めなんで、相当難しいかな?